ハラスメント防止措置について
企業内でハラスメント対策を講じる上で大切なポイントは、①どこまでのハラスメント行為を禁止するのか範囲を定めること、➁ハラスメント事案が発生した際の対応方法を決めておくこと、③使用者と労働者それぞれがハラスメントについて正しい認識を持つことだと考えます。
①どこまでのハラスメント行為を禁止するのか範囲を定める
「パワハラやセクハラとは何か?」を考えると、ハラスメント防止各法の定義では
パワハラ・・・優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの
セクハラ・・・職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されること
と規定されており、つまりハラスメントとは「単に嫌がらせをする行為」ではなく、それによって「就業環境を害する行為」であるということになります。
具体的な行為としては、殴る蹴るなどの身体的暴力や人格を否定するような言動、性的な関係の強要や性的な事実関係を尋ねる行為など、裁判例で認定されたハラスメント行為を指すことが一般的ですが、それらは行為者の言動が民法上の不法行為に当たるかどうかを判断した事例であり、安全な就業環境を保護するというハラスメント防止各法の趣旨を考えると、それだけでは不十分であることがわかります。
しかし、逆に軽微な行為までハラスメントとして処分してしまうと、行為者から企業に対して処分の無効を求めて訴訟を起こされるリスクもあるので、ハラスメントの認定には注意が必要です。
-pdf.jpg)
➁ハラスメント事案が発生した際の対応方法を決めておく
企業内で実際にハラスメント事案が発生した際の対応方法については、ハラスメント防止各法の要件に適合したハラスメント防止措置を講じることが企業に義務付けられており、それに沿って対応する必要があります。
.png)
図は厚生労働省が作成した企業のハラスメント防止体制の例ですが、重要なポイントは「相談窓口を設置して周知すること」、「被害者のケアをすること」、「行為者に適切な処分をすること」、「関係者全員のプライバシーと安全を保護すること」、「再発防止策を講じること」です。
相談窓口は企業内に設置するものであっても、企業外で社会保険労務士などの専門家に依頼をするものでも構いませんが、適切な相談対応や、その後の解決策に適切に繋げられるものでなければなりません。
被害者のケアをするためには、被害者と行為者を引き離す配置転換や、行為者の謝罪、被害の状況によってはメンタルケアを行うことも重要です。
行為者の適切な処分については、懲戒処分を行う場合にはあらかじめ就業規則に規定がなければならないと労働基準法に定められているため、就業規則の整備が必須となります。
プライバシー保護の対象は被害者だけではなく、行為者や通報者など関係する者すべてが含まれ、相談したことや通報したこと、解決に協力したことを理由として不利益に取り扱ってはならないことも求められます。
再発防止策としては、トップからの強いメッセージの発信や社内研修の実施が有効です。
適切なハラスメント防止措置を講じることで、被害者の迅速かつ確実な救済に繋げられることはもちろんのこと、被害者や行為者から訴訟を起こされた場合に、安全配慮義務を果たしていたと判断される重要な要素にもなり、結果的に企業を守ることにも繋がります。
③使用者と労働者それぞれがハラスメントについて正しい認識を持つ
昨今では、ハラスメントに対して過敏になっている世間の風潮を受けて「ちょっとしたことでもハラスメントだと騒がれる」と上司が部下に対して委縮しているとの声も聞かれますが、①で触れたように、ハラスメントに当たるかどうかには一定の基準があり、それを企業側も労働者側も正しく理解することで、無用な衝突を避けることもできます。
労働局での相談事例の中でも、相談者と企業側との間でハラスメントに関する認識の食い違いを生じていたことが多く、ほんの些細な出来事からハラスメント事案に発展してしまったこともありました。
何でもかんでも「ハラスメントだ!」と騒ぎ立てる労働者は、ハラスメント防止という法の盾を利用した権利の濫用であるとも感じざるを得ず、本当に救済が必要な労働者の妨げにもなっています。
ハラスメントの防止のために最も大切なことは、企業側も労働者側も正しい認識を持った上で、お互いを尊重する心を持つことだと私は考えています。
当事務所では、ハラスメント防止に関する研修の実施や、ハラスメント防止規定の整備、外部相談窓口など幅広く対応いたします。